セキュアコーディングは、サイバー攻撃への耐性を持たせる防御的なプログラミング手法です。
開発初期にセキュアコーディングを活用することで、SQLインジェクションやOSコマンドインジェクションなどの脅威を効果的に防げます。
しかし、適切な規約・分類体系の理解や開発工程での継続的な対策、専門人材の確保といった課題が存在するのも事実です。
この記事では、セキュアコーディングの概要や必要な背景、原則、開発工程でのポイントについて解説します。
目次
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- セキュアコーディングとは
- セキュアコーディングが必要とされる背景
- セキュアコーディングにより低減される脅威
- SQLインジェクション
- OSコマンドインジェクション
- パラメータの改ざん
- セキュアコーディングの原則
- 入力を検証する
- コンパイラの警告に注意する
- セキュリティポリシーを設計する
- 設計はシンプルを心がける
- デフォルトで拒否する
- 最小権限の原則を遵守する
- 他システムに送信するデータはサニタイズにする
- 多層防御を実践する
- 効果的な品質保証手法を活用する
- 安全なコーディング標準を採用する
- セキュアコーディングの代表的な規約・分類体系
- MISRA C/C++
- HIPAA
- CERT C
- OWASP
- CWE
- 開発工程におけるセキュアコーディングの重要ポイント
- シフトレフトの重要性
- 要件定義
- 設計・開発
- テスト・改善
- セキュアコーディングと併用すべきセキュリティ対策
- セキュリティ人材の確保・育成
- ファイアウォールやWAFの導入
- セキュリティ対策ソフトの導入
- まとめ
セキュアコーディングとは

セキュアコーディングとは、サイバー攻撃への耐性を持たせながらソフトウェアを開発する防御的なプログラミング手法のことです。
開発初期段階から脆弱性の混入を防ぐ設計思想が基本となっています。
従来の機能重視の開発とは異なり、悪意ある利用者の存在を前提としたコード記述により、堅牢なシステムを実現する技術体系です。
具体的には、SQLインジェクションやOSコマンドインジェクションなど、脆弱性を突いたサイバー攻撃に効果的です。
セキュアコーディングが必要とされる背景

デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に伴い、あらゆる業務システムがインターネットに接続される時代になりました。
サイバー攻撃者は日々新たな手法を編み出し、業務システムの弱点を執拗に狙っています。
従来の境界防御だけではセキュリティ対策は不十分であり、攻撃を受けた際の被害は決して小さくないため、システム自体の堅牢性向上が急務となっているのです。
また、リモートワークの普及により攻撃対象領域が拡大し、エンドポイントの保護がより重要性を増している状況です。このような背景から、セキュアコーディングの必要性が高まっています。
サイバー攻撃の脅威については以下の記事で詳しく解説しています。
セキュアコーディングにより低減される脅威

適切なセキュアコーディング技術の導入により、主要な攻撃手法を効果的に防御できます。以下、代表的な脅威について解説します。
SQLインジェクション
SQLインジェクションとは、不正なSQL文を注入してデータベースを不正操作するサイバー攻撃のことです。不正なSQL文の挿入を防ぐことで、機密情報の流出リスクを軽減できます。
ユーザー入力を直接SQL文に組み込むのではなく、パラメータとして分離処理する実装により、攻撃者の意図した命令実行を根本から阻止することが可能です。
入力値のホワイトリスト検証と組み合わせれば、多層的な防御体制が構築され、データベースの安全性が飛躍的に向上します。
SQLインジェクションの詳細については以下の記事で解説しています。
OSコマンドインジェクション
OSコマンドインジェクションとは、外部からの入力を介して不正にOSのコマンドを実行させるサイバー攻撃のことです。
セキュアコーディングにより、OSコマンドの不正実行を阻止する仕組みを実装すれば、サーバー全体の制御権奪取を防げます。
適切なエスケープ処理が基本的な対策となりますが、より安全なのはコマンド実行自体を避ける設計です。実行権限の最小化と組み合わせることで、万が一の侵入時でも被害を限定的に抑えられます。
OSコマンドインジェクションの仕組みや対策方法については以下の記事で解説しています。
パラメータの改ざん
通信経路上でのデータ改変を検知・防止する仕組みにより、システムの整合性と信頼性を確保できます。デジタル署名技術を用いれば、わずかな変更も見逃さない検証が実現します。
セッション管理においては、重要なパラメータをサーバー側で保持し、クライアント側には最小限の情報のみを渡す設計が効果的です。価格や権限レベルなど、重要な値は特に厳重な保護が必要です。
セキュアコーディングの原則

効果的なセキュアコーディングには、基本的な設計原則の理解と実践が欠かせません。ここでは、開発者が遵守すべき重要な原則について解説します。
入力を検証する
外部から受け取る全てのデータは信頼できないものとして扱い、厳密な検証処理を実装する必要があります。文字種、長さ、形式の妥当性を確認し、想定外の値は即座に拒否しましょう。
許可リスト方式の採用により、既知の安全な入力のみを受け入れる堅固な防御が実現できます。
コンパイラの警告に注意する
コンパイル時に出力される警告は潜在的なバグや脆弱性を示唆する貴重な手がかりとなるため、警告レベルは最大に設定しましょう。
型の不一致や未初期化変数など、一見些細な問題が重大なセキュリティホールに発展する可能性があります。静的解析ツールとの併用により、より深いレベルでの問題検出を行えます。
セキュリティポリシーを設計する
システム全体で一貫したセキュリティ方針を定義し、開発チーム全員が共有する体制を整備します。認証、認可、暗号化の方式を明文化することが大切です。
定期的な見直しにより、新たな脅威への対応や技術進化への追従も忘れずに実施する必要があります。
設計はシンプルを心がける
複雑な構造は理解を困難にするため、設計は可能な限りシンプルにすることがポイントです。
設定の見落としやミスの誘発が少なくなるほか、使用においてエラーの発生確率を低くできます。
デフォルトで拒否する
システムの初期状態では全てのアクセスを拒否し、必要な権限のみを明示的に許可する設計思想を採用します。
ホワイトリスト方式により、予期しないアクセスパターンを自動的に遮断できます。セキュリティレベルの一貫性を保つことが重要です。
最小権限の原則を遵守する
プロセスやユーザーには、タスク遂行に必要な最小限の権限のみを付与する設計を徹底します。一時的な権限昇格が必要な場合も、処理完了後は速やかに権限を戻しましょう。
役割ベースのアクセス制御(RBAC)を実装し、職務に応じた適切な権限管理を実現することが大切です。
他システムに送信するデータはサニタイズにする
外部システムやコンポーネントにデータを渡す際は、危険な文字列や制御コードを適切にサニタイズ(無害化)する処理が不可欠です。
HTMLエンコーディング、URLエンコーディングなど、送信先に応じた適切な変換を実施しましょう。出力先の特性を考慮した上での適切なサニタイズ処理を実装することが求められます。
多層防御を実践する
単一の防御策に依存せず、複数の防御策を重ね合わせて実装しましょう。ネットワーク層、アプリケーション層、データ層それぞれに適切な対策を配置します。
1つの防御が破られても、次の層で攻撃を阻止できる冗長性のある構造が理想的です。
効果的な品質保証手法を活用する
ピアレビューや自動テスト、ペネトレーションテストなど、多様な検証手法を組み合わせて品質を担保しましょう。
独立したセキュリティレビューは未知の脆弱性発見に繋がり、システムのセキュリティ強化を図れます。第三者による独立したセキュリティ監査を定期的に実施することも重要です。
安全なコーディング標準を採用する
業界で確立されたコーディング規約に準拠した開発を実践します。言語やプラットフォーム固有のセキュアコーディングガイドラインも積極的に活用しましょう。
定期的な教育とトレーニングにより、最新のコーディング方法を開発者全員が習得できる体制を整えることも大切です。
セキュアコーディングの代表的な規約・分類体系

セキュアコーディングには、業界標準として認められた規約や分類体系が複数存在し、開発現場での活用が推進されています。以下、セキュアコーディングの代表的な規約・分類体系を紹介します。
MISRA C/C++
自動車業界の安全性向上を目的として策定された、C言語およびC++言語向けの包括的なプログラミング規約として広く認知されています。
組み込みシステム特有のリスクに焦点を当て、予測可能な動作を保証する厳格なルールが体系的に整備されている点が特徴です。
航空宇宙や医療機器、金融、IoT分野でも広く採用され、高信頼性システムの開発標準として世界的に定着し、業界のデファクトスタンダードとなりました。
HIPAA
HIPAA(医療保険の携行性と責任に関する法律)は米国の法律名称です。医療情報セキュリティの厳格な基準として世界的に知られています。
電子的な保護対象保健情報の取り扱いに関する管理的・技術的・物理的な保護措置を規定し、アクセス制御、暗号化、定期的なリスク評価が義務付けられています。
CERT C
カーネギーメロン大学のソフトウェア工学研究所が開発した、C言語向けの包括的なセキュアコーディング標準として確立されました。C言語特有の脆弱性への対策を網羅的にカバーしています。
リスクアセスメントに基づく優先度付けにより、限られたリソースでも効率的な対策実施が可能となる実践的な設計です。
OWASP
OWASPは、Webアプリケーションのセキュリティ向上を目的として活動する非営利団体です。
「OWASP Top 10」と呼ばれる脆弱性ランキングは、業界標準として世界中の開発現場で広く参照され、対策の指針となっています。
開発者向けのチートシートやテスティングガイドなど、実践的なリソースを提供している点が評価されています。
CWE
MITRE社が管理する、ソフトウェアとハードウェアの脆弱性を体系的に分類した包括的なデータベースとして運用されています。
1,000種類以上の脆弱性パターンが階層構造で整理され、相互関係も明確に定義されており、体系的な理解が可能となりました。
CVE(共通脆弱性識別子)との連携により、実際の脆弱性情報との紐付けも容易に実現できます。
開発工程におけるセキュアコーディングの重要ポイント

開発プロセス全体を通じて、段階的なセキュリティ対策の実装が強く求められています。以下、各工程におけるセキュアコーディングの重要ポイントを詳しく解説します。
シフトレフトの重要性
従来の品質保証活動を開発初期段階に前倒しする「シフトレフト」の考え方が、セキュリティ分野でも重要視されるようになりました。
脅威モデリングやセキュリティ要件定義を早期に実施し、根本的な設計欠陥を防ぐアプローチが効果的です。
開発者がセキュリティを意識した実装を行うことで、後工程での手戻りが大幅に削減され、プロジェクト全体の効率が向上します。
要件定義
プロジェクト開始時点でセキュリティ要件を明確化することも大切です。全ステークホルダーが共通認識を持つことがプロジェクトの成功に繋がります。
攻撃者の視点に立った脅威分析により、保護すべき資産と想定される攻撃シナリオを詳細に洗い出すプロセスが重要です。
必須要件と推奨事項を区別して整理しつつ、実装方針を明確化する必要があります。
設計・開発
アーキテクチャ設計の段階からセキュリティを考慮し、防御機構を組み込んだ構造を実現することが極めて重要となります。この際、個別機能での実装漏れを防ぐ設計思想が求められます。
ペアプログラミングやコードレビューにより、複数の視点からセキュリティ上の問題点を発見できるようになるため、早期修正が可能です。
開発を進めるにあたっては、脆弱性対策が講じられているかどうかを随時確認しながら実行しましょう。
テスト・改善
実行時の脆弱性を網羅的に検出するセキュリティテストの実施が必要です。ペネトレーションテストでは実際の攻撃手法を用いて、システム全体の堅牢性を検証し、潜在的なリスクを発見できます。
脆弱性診断やペネトレーションテストの実行は、外部のベンダーに依頼するのも1つの手です。予期せぬ脆弱性の発見に効果的で、品質向上に大きく貢献します。
また、発見された問題の根本原因を分析し、同様の問題の再発防止策を組織全体で共有することも大切です。
セキュアコーディングと併用すべきセキュリティ対策

セキュアコーディングはシステムやアプリケーションのセキュリティ対策として有効ですが、全ての脅威を完全に防げるわけではありません。
対応困難な脅威に対しては追加的な防御策が必要です。以下、効果的な補完策と実装方法について解説します。
セキュリティ人材の確保・育成
高度化する脅威に対抗するには、専門的な知識とスキルを持つ人材の確保が不可欠です。
セキュリティ人材は業界問わず不足しており、外部から採用できない場合もあるため、既存開発者への教育投資も重要な戦略として位置付けて成長を促進しましょう。
セキュリティ資格取得支援や専門研修への参加機会を提供することで、組織全体の対応力が着実に向上します。
また、社内勉強会やナレッジ共有の仕組みを整備し、個人の知見を組織の資産として蓄積する文化を確立することが大切です。セキュリティ人材については以下の記事で解説しています。
ファイアウォールやWAFの導入
ファイアウォールは内部ネットワークを防御の対象にするのに対し、WAFはWebアプリケーションを主に防御の対象にします。
ネットワークレベルとアプリケーションレベルの双方で、外部からの攻撃を遮断する多層防御体制の構築が必須です。
また、次世代ファイアウォールを設置すれば、より精密な通信制御が実現でき、攻撃を効果的に防げます。ファイアウォールの詳細を知りたい方は以下の記事をご覧ください。
セキュリティ対策ソフトの導入
セキュリティ対策ソフトの導入により、サイバー攻撃者からシステムを保護する体制を構築できます。
例えば、EDR機能で侵害の兆候を早期に検知し、インシデント対応を迅速に取ることができれば、被害の拡大を防げます。
セキュリティ対策ソフトにはさまざまな種類があり、効果的なセキュリティ内容が異なるため、各ソフトの特徴を理解した上で状況に合わせて選択することが重要です。
代表的なセキュリティ対策ソフトについては以下の記事でそれぞれ解説しています。
【関連記事】EDRとは?EPPとの違いや機能・製品選びのポイントをわかりやすく解説
まとめ
この記事では、セキュアコーディングの概要や必要な背景、代表的な規約、開発工程でのポイントについて解説しました。
セキュアコーディングはサイバー攻撃への耐性を持つソフトウェア開発手法で、入力検証や最小権限の原則など多様な原則に基づいています。
OWASP、CERT C、MISRA C/C++などの規約に準拠し、シフトレフトの考え方で開発初期から対策を実施することが重要です。
組織の情報資産を守り抜くためにも、セキュアコーディングを含む包括的なセキュリティ対策を継続的に実施しましょう。
文責:GMOインターネットグループ株式会社