「ステガノグラフィという言葉を聞いたことはあるが、具体的にどんな技術なのか分からない」という方も多いのではないでしょうか。
ステガノグラフィとは、画像や音声などのデータの中に別の情報を密かに埋め込んで隠す技術のことです。
第三者に気付かれることなく情報を伝達できるという利点がありますが、この技術は攻撃者によってマルウェアの隠ぺいや機密情報の窃取にも悪用されています。
ステガノグラフィを悪用した攻撃の被害を防ぐには、OSの最新化や脆弱性診断など多層的なセキュリティ対策が不可欠です。
この記事では、ステガノグラフィの種類や悪用されるサイバー攻撃の仕組み、攻撃の流れ、有効な対策方法について解説します。
目次
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- ステガノグラフィとは
- 電子透かしとの違い
- 暗号化との違い
- ステガノグラフィの種類
- テキストステガノグラフィ
- 画像ステガノグラフィ
- 動画ステガノグラフィ
- 音声ステガノグラフィ
- ネットワークステガノグラフィ
- ステガノグラフィを悪用したサイバー攻撃の仕組み
- マルウェアなどの隠ぺい
- 情報の隠ぺい・窃取
- コマンドの隠ぺい
- ステガノグラフィを悪用したサイバー攻撃の流れ
- なりすましメールの送付
- メールに添付されたファイルの開封
- マクロの有効化
- PowerShellの起動とダウンロード
- プログラムの実行
- マルウェアの感染
- ステガノグラフィを用いたサイバー攻撃の対策
- OSやシステムを常に最新の状態に保つ
- 脆弱性診断を定期的に実施する
- 従業員へのセキュリティ教育を行う
- ネットワーク監視システムを導入する
- アンチウイルスソフトを導入する
- まとめ
ステガノグラフィとは

ステガノグラフィとは、画像や音声、動画などのデータの中に別の情報を密かに埋め込んで隠す技術のことです。
見た目や音では通常のファイルと区別がつかないため、第三者に気付かれることなく情報を伝達できる特性を持っています。
ステガノグラフィの名前の由来は、ギリシャ語の「steganos(隠された)」と「graphein(書く)」です。
正当な目的で使われる一方、攻撃者がマルウェアを隠すための手段として悪用されるケースも増えており、その対策が急務となっています。
電子透かしとの違い
電子透かしは著作権保護や改ざん検知を主な目的として情報を埋め込む技術であり、コンテンツの所有権を証明するために広く活用されています。
一方、ステガノグラフィは秘密通信を主目的としており、情報が埋め込まれていること自体を第三者に悟られないよう設計されている点が大きな違いです。
両者は似た技術基盤を持ちながらも、目的と設計思想が根本的に異なっています。
暗号化との違い
暗号化は、データの内容を読めない形式に変換する技術です。暗号化されたファイルが存在すること自体は外部から確認しやすい状態にあります。
つまり、第三者は「何か秘密の情報がある」という事実を認識でき、解読を試みる動機を与えてしまう可能性があります。
それに対し、ステガノグラフィは情報が隠されていること自体を秘匿するのが特徴です。
両者を組み合わせれば、情報の存在を隠しながら内容も保護する二重のセキュリティ層を構築できます。
ステガノグラフィの種類

ステガノグラフィには、情報を埋め込む媒体の種類によってさまざまな手法が存在します。以下、代表的な5つのタイプをそれぞれ詳しく解説します。
テキストステガノグラフィ
テキストステガノグラフィは、文章の中に特殊な文字や見えない空白を挿入して、人間の目には気付かれない形で情報を埋め込む手法です。
単語の選び方や文字間隔の微妙な調整、あるいは特定の文字を頭文字として並べるといった方法で秘密のメッセージを隠します。
主に短いメッセージや鍵情報の伝達など、限定的な用途で使われる傾向にあります。
画像ステガノグラフィ
画像ファイルのピクセルデータに情報を埋め込み、視覚的な変化をほとんど与えずに秘匿する方式です。JPEGやPNGなど、さまざまな画像形式で利用されています。
SNSやWebサイトで共有される画像に悪意あるデータが潜んでいる可能性もあり、警戒が欠かせません。
動画ステガノグラフィ
動画ファイルのフレームデータや音声トラックに情報を埋め込んで隠す手法です。
動画は1秒間に数十フレームの画像と音声データで構成されているため、埋め込める情報量が画像単体と比較して格段に多くなります。
大容量のデータを秘密裏に伝達できる利点がある反面、処理に必要な計算リソースやファイルサイズの管理が複雑になりやすい側面もあります。
音声ステガノグラフィ
音声ステガノグラフィは、音声ファイルの周波数や振幅に微小な変更を加えて、人間の耳では判別しにくい形で情報を隠す手法です。
可聴域外の周波数帯を利用したり、エコーや位相のわずかなずれに情報を載せたりする技術が知られています。リアルタイム音声にデータを埋め込む手法も研究されており、検知の難易度は年々上がっています。
ネットワークステガノグラフィ
通信プロトコルのヘッダーやパケットのタイミング、順序などを利用して、ネットワーク上で情報を隠しながら送信する手法です。
正常な通信トラフィックに見せかけながら秘密のデータをやり取りできるため、従来のファイアウォールや監視システムをすり抜けやすい特性を持っています。
検知するためには、通信内容だけでなくメタデータや振る舞いまで分析する必要があります。
ステガノグラフィを悪用したサイバー攻撃の仕組み

ステガノグラフィは正当な用途だけでなく、サイバー攻撃者によって悪意ある目的にも利用されています。以下、悪用される主な3つのパターンを紹介します。
マルウェアなどの隠ぺい
ステガノグラフィはマルウェアや悪意あるコードの隠ぺいに利用されていることがあります。
実行ファイルやスクリプトを画像や音声ファイルに埋め込み、アンチウイルスソフトによる検出を回避する手口です。
正規のメディアファイルに偽装されているため、システムのセキュリティ機構が素通りさせてしまう危険性があります。
ユーザーが画像を閲覧しただけでは感染しないケースも多いものの、特定の条件下でコードが抽出・実行される仕掛けが組み込まれている場合があります。
マルウェアの詳細について知りたい場合は以下の記事をご覧ください。
情報の隠ぺい・窃取
盗み出した機密データを画像や音声ファイルの中に埋め込むことで、監視の目をかいくぐりながら外部へ持ち出すことが可能です。
情報漏洩対策としてメールの添付ファイルやクラウドストレージへのアップロードを監視している組織でも、通常のメディアファイルとして送信されれば検知が極めて困難になります。
外部への通信量やファイル転送の頻度だけでは異常を見抜けないため、コンテンツの中身まで精査する仕組みが必要です。
コマンドの隠ぺい
ステガノグラフィを使って命令内容を隠ぺいしながらコントロールする方法です。C&C通信を画像ファイルに偽装することで、不審な通信として認識されにくくなります。
感染端末は定期的に特定のWebサイトから画像をダウンロードし、そこに埋め込まれた指令を抽出して実行するという流れが一般的です。
通信先が正規のサービスやSNSである場合、ブラックリストによるブロックも効きにくい状況に陥ります。持続的な監視体制の構築が対策の要となります。
ステガノグラフィを悪用したサイバー攻撃の流れ

ステガノグラフィを用いた攻撃は、複数のステップを経て被害をもたらします。ここでは、典型的な攻撃プロセスを6つのステップに分けて解説します。
▼ステガノグラフィを悪用したサイバー攻撃の流れ
- なりすましメールの送付
- メールに添付されたファイルの開封
- マクロの有効化
- PowerShellの起動とダウンロード
- プログラムの実行
- マルウェアの感染
なりすましメールの送付
攻撃者は取引先や社内の関係者を装ったメールを標的に送りつけ、受信者の警戒心を緩めることから攻撃を開始します。
件名には「請求書の確認」「会議資料の送付」など業務上ありがちな内容を記載し、自然な流れで添付ファイルを開かせる仕掛けを作ります。
メールに添付されたファイルの開封
受信者が添付ファイルを開くと、内容を確認するためのステップが記されています。
多くの場合、ファイルの外見や拡張子は正規のものと変わらないため、ユーザーが危険を察知するのは困難です。
この時点ではまだ感染には至っていないケースもありますが、攻撃プロセスは着実に進行しています。
マクロの有効化
添付されたファイルにはマクロが埋め込まれており、ユーザーが「コンテンツの有効化」ボタンをクリックした瞬間、マクロが実行されてしまいます。
マクロは本来、業務効率化のための正当な機能ですが、攻撃者はこれを悪用して不正なプログラムを実行させます。
PowerShellの起動とダウンロード
マクロによってPowerShellが起動され、外部サーバーから画像ファイルをダウンロードする処理が実行されます。
画像ファイルは一見すると無害なコンテンツに見えますが、その中に次の攻撃ステップに必要なスクリプトが埋め込まれています。
プログラムの実行
ダウンロードされた画像にはステガノグラフィのスクリプトが埋め込まれており、悪意あるプログラムがシステム上で実行されます。
実行されるプログラムはバックドアの設置や権限昇格、横展開のためのツールなど、攻撃の目的に応じてさまざまです。ユーザーの目に見える形での異常は発生しないことが多く、この時点では被害に気付けません。
マルウェアの感染
最終的にマルウェアがシステム全体に感染します。マルウェア感染により、情報窃取やシステム破壊、ランサムウェアによる暗号化といった被害が発生します。
攻撃者は長期間にわたって潜伏しながら継続的にデータを盗み取る態勢を築くケースも多く、発覚までに数ヶ月を要することも珍しくありません。
被害を最小限に抑えるためには、あらかじめマルウェア対策を徹底しておく必要があります。
ステガノグラフィを用いたサイバー攻撃の対策

ステガノグラフィを悪用した攻撃は検知が難しいものの、多層的な対策を講じることでリスクを低減できます。以下、実施すべき効果的な対策を5つ挙げて、それぞれ詳しく解説します。
OSやシステムを常に最新の状態に保つ
脆弱性を悪用した攻撃を防ぐためには、OSやソフトウェアのアップデートを速やかに適用する習慣が欠かせません。
特にOffice製品やPDF閲覧ソフト、ブラウザなど日常的に使用するアプリケーションは、攻撃の入口として狙われやすい傾向にあるため、忘れずに更新しておきましょう。
自動更新機能を有効にしておくとともに、更新状況を定期的に確認する運用フローを整えておくことが重要です。
脆弱性診断を定期的に実施する
システムやネットワークに潜む弱点を発見して修正するために、専門ツールや外部業者による脆弱性診断を定期的に行うことが効果的です。
脆弱性が放置されたままの環境では、ステガノグラフィを用いた攻撃の足がかりを与えてしまうリスクが高まります。
診断結果をもとに優先度を判断し、影響の大きい脆弱性から順次対処していくプロセスを確立してください。
年に一度の診断だけでなく、システム変更や新規導入のタイミングでも追加の診断を検討しましょう。脆弱性診断の重要性については以下の記事で解説しています。
従業員へのセキュリティ教育を行う
従業員に対して繰り返し教育を行い、組織全体のセキュリティ体制を整えるのも重要な対策です。
技術的な対策だけでは防ぎきれない人的要因による感染を減らすことで、攻撃の成功率を下げられます。
実際のフィッシングメールを模した訓練を定期的に実施すれば、従業員の警戒心を実践的に養うことが期待できるでしょう。
ネットワーク監視システムを導入する
通信トラフィックを常時監視して、異常なデータの送受信を早期に検知できる体制を整えることが対策の柱となります。
ステガノグラフィで隠されたC&C通信も、振る舞いの分析によって発見できる可能性が高まります。具体的には、NDRやSIEMといったソリューションの導入が有効です。
検知したアラートに対して迅速に調査・対応できるインシデント対応フローをあらかじめ整備しておくことも欠かせません。
アンチウイルスソフトを導入する
最新の脅威に対応したアンチウイルスソフトの導入を検討しましょう。
定義ファイルの自動更新と定期的なフルスキャンを組み合わせることで、検知率を高い水準で維持しやすくなります。
エンドポイントの保護だけでなく、メールゲートウェイやWebプロキシでのスキャンも併用すれば、複数の侵入経路をカバーしやすくなります。
単一の製品に依存せず、多層防御の考え方で複数の対策を組み合わせることが重要です。
まとめ
この記事では、ステガノグラフィの基本的な仕組みや種類、悪用されるサイバー攻撃のパターン、効果的な対策方法について解説しました。
ステガノグラフィにはテキスト・画像・動画・音声・ネットワークといった複数の手法があり、それぞれ異なる媒体を通じて情報を秘匿します。
攻撃者はこの技術を利用してマルウェアの配布やC&C通信の隠ぺい、機密データの持ち出しを行います。
被害を防ぐには、OSの最新化や脆弱性診断の定期実施、従業員教育、ネットワーク監視の導入など多層的な対策が必要です。複数の手法を組み合わせて組織全体のセキュリティ体制を強化していきましょう。
なお、企業が取り組むべきセキュリティ対策については以下の記事で詳しく解説しています。
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文責:GMOインターネットグループ株式会社