能動的サイバー防御とは?推進理由や政策内容、メリット・課題を解説

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「能動的サイバー防御とは何か?従来の防御手法と何が違うのか知りたい」という疑問がある方もいるでしょう。

能動的サイバー防御とは、攻撃を受けてから対処するのではなく、脅威の兆候を早期に察知して先手を打つ防御手法のことです。

従来の受動的な防御から一歩踏み込み、攻撃者を追跡・排除することで、被害を最小限に抑えることができます。

しかし、能動的サイバー防御を効果的に機能させるには、政府機関と民間企業の緊密な連携や、組織内での報告体制の整備が不可欠です。

この記事では、能動的サイバー防御が推進される背景や具体的な政策内容、導入メリット、実施時の重要ポイントについて解説します。

目次

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  1. 能動的サイバー防御とは
  2. 能動的サイバー防御が推進されている理由
  3. 国の重要なインフラが狙われている
  4. 従来の防御では限界が見えてきた
  5. ハイブリッド戦略が展開される可能性がある
  6. 能動的サイバー防御の具体的な政策
  7. 政府・民間組織の連携
  8. 悪用が疑われるサーバーの検知
  9. 政府に対する必要な権限付与
  10. 能動的サイバー防御に深く関わる民間企業
  11. 基幹インフラ事業者
  12. 基幹インフラ事業者のシステムに関連する事業者
  13. ITベンダー
  14. 電気通信事業者
  15. 能動的サイバー防御を実施するメリット
  16. サイバー攻撃を未然に防止できる
  17. セキュリティ信頼性が向上する
  18. 被害復旧にかかるコストを削減できる
  19. 能動的サイバー防御を推進する際の課題
  20. 技術的課題
  21. 国際的協調
  22. 能動的サイバー防御を実施する際の重要ポイント
  23. セキュリティインシデントの報告を義務付ける
  24. 脆弱性情報に関する対応を行う
  25. 通信情報を積極的に共有する
  26. 能動的サイバー防御の今後の展望
  27. まとめ

能動的サイバー防御とは

能動的サイバー防御とは、サイバー攻撃を受ける前に先制的にセキュリティ対策を講じる行為のことを指します。

従来の受動的な防御から一歩踏み込み、攻撃者を追跡・排除する積極的な取り組みだといえるでしょう。

受動的な防御では、攻撃が検知されるまで対策を打つことができませんが、能動的サイバー防御では攻撃の兆候を早期に発見し、より効果的に攻撃を防げます。

具体的には、攻撃者のネットワークやシステムに逆に侵入し、不審な動きがないように常時監視するといった方法があります。

攻撃者が本格的に動く前に、その攻撃をあらかじめ抑制することで、被害を最小限に抑えることができるのです。

サイバー脅威が高度化・複雑化する中、従来の防御一辺倒では限界があるため、能動的サイバー防御の重要性が高まっています。

【関連記事】サイバー攻撃とは?種類や被害事例、対策方法についてわかりやすく解説

能動的サイバー防御が推進されている理由

日本政府が能動的サイバー防御の導入を急ぐ背景には、国家の安全保障を根幹から揺るがしかねない複数の要因が存在しています。以下、推進の主な理由を3つ取り上げて解説します。

国の重要なインフラが狙われている

電力や水道、通信など国民生活の基盤となる重要インフラが、国家レベルの外部勢力によるサイバー攻撃の標的となる事例が世界各地で相次いでいます。

日本も例外ではなく、同様のリスクに直面している状況です。

こうしたインフラが機能停止に陥った場合、医療機関の業務が滞り、交通網が麻痺するなど市民生活への影響は甚大なものとなるでしょう。

経済損失も天文学的な数字に達する恐れがあり、事後対応のみで被害を抑えることには限界があります。

攻撃を受ける前に脅威を察知し、先手を打つ防御体制の構築がこれまで以上に求められています。

従来の防御では限界が見えてきた

システムへの侵入を検知してから対応に動く従来型の手法では、巧妙化の一途をたどるサイバー攻撃に太刀打ちしにくくなっています。

攻撃者側は検知を巧みにかわす技術を磨き続けており、侵入から発覚まで数ヶ月を要した事例も少なくありません。

被害が表面化した時点では機密情報の流出やシステム破壊が進行しているため、組織の信用回復には膨大な時間とコストを要します。

こうした状況を打開するには、攻撃の準備段階や偵察行動を捉えて先に無力化する積極的な姿勢への転換が不可欠です。

ハイブリッド戦略が展開される可能性がある

サイバー空間での攻撃と物理的な破壊行為を組み合わせた複合型の脅威シナリオが、安全保障上の現実的なリスクとして認識され始めています。

例えば、電力供給網へのハッキングと並行して変電施設を物理的に攻撃するなど、複数の手段を同時に用いる戦略が想定されます。

地政学的な緊張が高まる中、こうしたハイブリッド戦略が実行に移される懸念は払拭しきれません。

多面的な脅威への備えとして、サイバー領域での先制的な監視・対処能力の確保が急務となっています。

能動的サイバー防御の具体的な政策

能動的サイバー防御を実現するには、多角的な政策が求められます。政府機関だけでなく、民間企業との緊密な連携が不可欠です。

また、技術的・法的な課題をクリアしつつ、国際的な協調も欠かせません。以下、具体的な政策とその影響について解説します。

政府・民間組織の連携

政府機関とサイバーセキュリティ企業が情報を共有し、協力体制を構築することが重要です。

サイバー攻撃の手口や傾向、影響範囲などの情報を官民で共有することで、より効果的な対策を講じることができるでしょう。

また、民間の高度なセキュリティ技術を政府の取り組みに活用すれば、サイバー攻撃の早期発見と迅速な対応が可能となります。

そのため官民連携を強化し、能動的サイバー防御の実効性を高めていくことが求められます。

悪用が疑われるサーバーの検知

不正プログラムの配布や攻撃の踏み台になっているサーバーを特定することは、能動的サイバー防御の重要な要素の1つです。

C&Cサーバーやマルウェア配布サイトなど、攻撃インフラとして悪用されているサーバーを割り出し、早期に対処する必要があるのです。

そのためには、マルウェア解析や振る舞い検知などの高度な技術を駆使した上で、不審なサーバーを見極める能力が求められます。

サイバー攻撃のインフラを叩くことで、攻撃者の活動を大きく制限できると期待されています。

政府に対する必要な権限付与

サイバー攻撃への積極的な対処を可能にするためには、政府に一定の権限を与える必要があります。

現行法の制約により、政府機関のサイバー防御活動は限定的にならざるを得ないのが実情です。

この状況では、効果的な能動的サイバー防御を講じることは難しく、常に後手の選択を取らざるを得ません。

そのため、令状なしでの不審なサーバーの調査や、攻撃インフラの一方的な無力化など、政府に対して必要な権限を付与する動きが必要です。

2025年5月に成立した「サイバー対処能力強化法」では、警察官や自衛隊による攻撃サーバーへのアクセス・無害化措置が明文化されました。実効性ある対処を実現する枠組みが整備されつつあります。

能動的サイバー防御に深く関わる民間企業

能動的サイバー防御を実効性のあるものにするためには、政府機関の取り組みだけでなく、社会インフラを支える民間企業との連携が欠かせません。

ここでは、この防御体制において中心的な役割を担う4つの事業者を紹介します。

基幹インフラ事業者

電力会社や鉄道事業者、ガス供給会社といった社会機能の土台を支える企業群がこのカテゴリに該当します。

これらの事業者が運用するシステムは市民生活に直結しているため、攻撃者にとって最も影響力の大きい標的となりやすい傾向にあります。

サービスが停止すれば混乱は広範囲に波及し、復旧までの間に社会全体が機能不全に陥るリスクも否定しきれません。

そのため基幹インフラ事業者には自社の防御力強化はもちろん、政府機関との緊密な情報連携も強く求められています。平時からの監視体制見直しやインシデント対応訓練の定期実施が喫緊の課題です。

基幹インフラ事業者のシステムに関連する事業者

インフラ事業者に対してシステム開発や運用保守サービスを手がける企業も、能動的サイバー防御の対象範囲に含まれます。

近年はサプライチェーンの隙を突いた攻撃が目立ち、関連事業者を踏み台にして本丸のシステムへ侵入する手口が確認されています。委託先のセキュリティ水準が脆弱であれば、そこが攻撃の突破口になりかねません。

インフラ事業者本体だけでなく、取引関係にある事業者全体で防御レベルを引き上げる必要があり、サプライチェーン全体を見据えた対策が重要となっています。

ITベンダー

セキュリティ製品やシステム基盤を提供するITベンダーも能動的サイバー防御に深く関わります。

最新の脅威情報を収集・分析し、その知見を顧客企業へ迅速に届けることで被害の未然防止に大きく貢献します。

政府や基幹インフラ事業者との連携を深めながら、官民一体となった防御網の構築に参画することへの期待は高まる一方です。

高度な技術力を活かしたリーダーシップの発揮がITベンダー各社に課された使命といえるでしょう。

電気通信事業者

通信インフラを管理する事業者は、ネットワーク上を流れる膨大なトラフィックの中から異常を検知できる立場にあります。不審な通信パターンや攻撃の予兆をいち早く捉えて関係機関へ報告できる環境構築が必要です。

大量のデータが行き交う通信網は攻撃経路としても悪用されやすく、その監視を担う電気通信事業者の責任は極めて重大です。

政府との情報共有体制を一層強化しながら、自社ネットワークの防御能力向上にも取り組む姿勢が求められます。

能動的サイバー防御を実施するメリット

能動的サイバー防御の導入は、組織のセキュリティ体制にさまざまな恩恵をもたらします。以下、実施によって得られる代表的なメリットを3つ紹介します。

サイバー攻撃を未然に防止できる

脅威の兆候を早い段階で捉えて対処に着手すれば、実際の被害が発生する前に攻撃を封じ込めることが期待されます。

攻撃者が準備を進めている段階や偵察行動の痕跡を検知できれば、システム停止や機密情報の流出といった深刻な事態を回避する余地が生まれます。

事後対応に追われる状況と比べて組織のリソース消費も抑えられ、運用面での負担軽減にも繋がるでしょう。

先回りして脅威を排除する姿勢は、結果的に組織全体の安定稼働を下支えする基盤となります。攻撃者に自由な行動を許さない環境作りこそが、この防御手法の核心です。

セキュリティ信頼性が向上する

積極的な防御態勢を敷いている事実は、顧客や取引先からの信頼獲得に直結する要素となります。

情報管理に対して厳格な姿勢を持つ企業として認知されることで、ビジネスパートナーとしての評価が自然と高まり、結果的に新規顧客の獲得にもプラスの効果をもたらします。

セキュリティへの投資は単なるコストではなく、企業価値を高める戦略的な判断として捉えるべきです。

とりわけ機密性の高いデータを扱う業種においては、セキュリティ体制の充実度が取引条件を左右する場面が増えています。

被害復旧にかかるコストを削減できる

攻撃を受けてから復旧作業に着手する場合と比較して、事前対応による経済的な負担の軽減効果は計り知れません。

システムの再構築費用や業務停止による機会損失、さらには顧客対応や信用回復に要する出費まで含めると、被害後のコストは膨大な額に膨れ上がります。

能動的サイバー防御によって攻撃を未然に防げれば、これらの支出を削減することが見込まれます。

初期投資として防御体制の構築にコストを投じたとしても、長期的に見れば十分なリターンが期待できるでしょう。

能動的サイバー防御を推進する際の課題

能動的サイバー防御には、技術的なハードルや国際的協調など、いくつかの課題が立ちはだかります。

ここでは、能動的サイバー防御を推進する際に課題となるポイントを2つ紹介します。

技術的課題

攻撃者の特定や追跡は、技術的に容易ではありません。

なぜなら、サイバー空間における追跡技術はまだ確立されておらず、匿名化技術やステルス機能など、巧妙な手口が用いられることも少なくないためです。

高度な攻撃手法に対抗するには、最新の技術と優秀な人材が不可欠です。

マルウェア解析や脅威インテリジェンスなど、高度なスキルを持つ専門家の確保が急務であり、国際的な枠組みの中での合意形成も求められます。

しかし、国内においては高度な技術を持つセキュリティ人材やDX人材は不足傾向にあるため、技術的課題をクリアすることは容易ではありません。

能動的サイバー防御を実現するためには、技術力の底上げが不可欠だといえます。

【関連記事】脅威インテリジェンスとは?重要性や具体的な導入の流れを紹介

国際的協調

サイバー空間は国境を越えるため、能動的サイバー防御には国際協調が欠かせません。

攻撃者のインフラは世界中に分散しており、一国だけの取り組みでは能動的サイバー防御を実現することは難しいといえます。

この課題をクリアするためには、各国で能動的サイバー防御を共有し、国際的なセキュリティ環境を構築する必要があるといえるでしょう。

しかし、各国の法制度の違いや政治的対立が、円滑な連携を妨げています。

例えば、サーバー調査の是非や情報共有の範囲などを巡って、意見の相違が生じる可能性があるのです。

国際的なルール作りと相互理解の促進が、能動的サイバー防御実現の鍵を握っています。

能動的サイバー防御を実施する際の重要ポイント

能動的サイバー防御を効果的に機能させるためには、いくつかの実務的な取り組みを徹底する必要があります。以下、実施時に特に注意すべき3つのポイントを説明します。

セキュリティインシデントの報告を義務付ける

セキュリティインシデントの報告義務を明文化しておけば、現場レベルで検知された小さな異変も見逃さずに集約され、迅速な初動対応へと繋げられます。

報告をためらう雰囲気や責任追及を恐れる風土があると、重要な情報が埋もれてしまうリスクが高まるため注意が必要です。

インシデント報告を組織文化として定着させるには、経営層からの明確なメッセージ発信と報告者を保護する制度設計が欠かせません。

定期的な訓練を通じて報告フローを全員に浸透させることも実効性を高める上で有効な施策です。セキュリティインシデントの詳細については以下の記事で解説しています。

【関連記事】セキュリティインシデントとは|主な種類や最新事例・企業がとるべき対策

脆弱性情報に関する対応を行う

システムやソフトウェアに潜む弱点を定期的に洗い出し、発見次第すぐに修正措置を講じる体制の構築が求められます。

脆弱性が放置されたままだと攻撃者に格好の侵入口を与えてしまい、能動的な防御策を講じていても効果が半減してしまいます。

ベンダーから公開されるセキュリティパッチの適用はもちろん、自社システム固有の弱点を把握するための脆弱性診断も定期的に実施すべきです。

対応の優先順位を判断する基準をあらかじめ設けておけば、限られたリソースの中でも効率的に作業を進められます。脆弱性診断については以下の記事で解説しています。

【関連記事】脆弱性診断(セキュリティ診断)とは|その種類ややり方・サービスの選び方

通信情報を積極的に共有する

関係機関や民間企業との間で脅威に関するデータを積極的に交換する体制作りが大切です。

自組織だけで収集できる情報には限界があるため、外部との連携によって攻撃パターンや最新の手口をいち早く把握する姿勢が重要です。

例えば、業界団体やISAC(情報共有分析センター)への参加は、信頼性の高い脅威情報を入手するための有力な手段となります。

共有された情報をもとに自社の防御策を見直すサイクルを確立すれば、常に最新の脅威に備えた体制を維持しやすくなるでしょう。

能動的サイバー防御の今後の展望

能動的サイバー防御は、サイバーセキュリティの新たな防御手段として期待されています。

従来の受動的な防御だけでは限界があることが明らかになっており、攻撃者に立ち向かう積極的な取り組みが求められているのです。

今後は、官民連携と各国の協力を軸に、能動的サイバー防御の体制強化が進むと予想されます。

サイバーセキュリティ企業と政府機関の連携により、高度な技術を防御に活かす動きが加速するでしょう。

実際、2025年5月には「サイバー対処能力強化法」および同整備法が成立・公布され、能動的サイバー防御の法的基盤が整いました。

この法律では、基幹インフラ事業者によるインシデント報告の義務化や、政府による通信情報の利用、攻撃サーバーへのアクセス・無害化措置などが規定されています。

独立機関である「サイバー通信情報監理委員会」が事前審査や継続的な検査を担い、通信の秘密への配慮と実効性の両立を図る仕組みも導入されました。

施行は公布日から1年6ヶ月以内とされており、今後は具体的な運用体制の整備が進む見通しです。

まとめ

この記事では、能動的サイバー防御の推進理由や具体的な政策、導入メリット、実施時の重要ポイントについて解説しました。

重要インフラへの攻撃増加や従来防御の限界、ハイブリッド戦略への懸念から、先手を打つ防御体制の構築が急務となっています。

基幹インフラ事業者やITベンダー、電気通信事業者など民間企業との連携が、実効性ある防御には欠かせません。

組織の安全と事業継続を守るためにも、インシデント報告体制や脆弱性管理、情報共有の仕組みを整備していきましょう。

なお、強固なセキュリティ環境を構築したい企業様は、以下の記事で紹介しているセキュリティ対策の実施をご検討ください。

【関連記事】企業が取り組むべきセキュリティ対策とは?重要性や対策内容を解説

文責:GMOインターネットグループ株式会社